<Header>
<Author: 白居易>
<Title: 琵琶引>
<Format: 格式不明>
<Year: 1990>
<BookName: 唐詩三百首詳解  下卷>
<Translator: 田部井文雄>
<style: 現代文無假名>
<style2: 日本現代譯文無假名標注>
<TranslatedTitle: 琵琶行　并びに序>
<BookPage: 128>
<UsedPage: 1>
<Feature: 1, 4>
<End Header>
<Poem>
潯陽江頭夜送客，
楓葉荻花秋索索。
主人下馬客在船，
舉酒欲飲無管弦。
醉不成歡慘將別，
別時茫茫江浸月。
忽聞水上琵琶聲，
主人忘歸客不發。
尋聲暗問彈者誰，
琵琶聲停欲語遲。
移船相近邀相見，
添酒迴燈重開宴。
千呼萬喚始出來，
猶抱琵琶半遮面。
轉軸撥弦三兩聲，
未成曲調先有情。
弦弦掩抑聲聲思，
似訴平生不得意。
低眉信手續續彈，
說盡心中無限事。
輕攏慢撚抹復挑，
初爲霓裳後六幺。
大弦嘈嘈如急雨，
小弦切切如私語。
嘈嘈切切錯雜彈，
大珠小珠落玉盤。
間關鶯語花底滑，
幽咽泉流水下灘。
水泉冷澀弦疑絕，
疑絕不通聲暫歇。
別有幽愁暗恨生，
此時無聲勝有聲。
銀缾乍破水漿迸，
鐵騎突出刀槍鳴。
曲終收撥當心畫，
四弦一聲如裂帛。
東舟西舫悄無言，
唯見江心秋月白。
沈吟放撥插弦中，
整頓衣裳起斂容。
自言本是京城女，
家在蝦蟇陵下住。
十三學得琵琶成，
名蜀教坊第一部。
曲罷曾教善才伏，
妝成每被秋娘妬。
五陵年少爭纏頭，
一曲紅綃不知數。
鈿頭雲箆擊節碎，
血色羅帬飜酒汙。
今年歡笑復明年，
秋月春風等閑度。
弟走從軍阿姨死，
暮去朝來顏色故。
門前冷落鞍馬稀，
老大嫁作商人婦。
商人重利輕別離，
前月浮梁買茶去。
去來江口守空船，
繞船月明江水寒。
夜深忽夢少年事，
夢啼妝淚紅闌干。
我聞琵琶已歎息，
又聞此語重唧唧。
同是天涯淪落人，
相逢何必曾相識。
我從去年辭帝京，
謫居臥病潯陽城。
潯陽小處無音樂，
終歲不聞絲竹聲。
住近湓江地低濕，
黃蘆苦竹繞宅生。
其間旦暮聞何物，
杜鵑啼血猨哀鳴。
春江花朝秋月夜，
往往取酒還獨傾。
豈無山歌與村笛，
嘔啞嘲哳難爲聽。
今夜聞君琵琶語，
如聽仙樂耳暫明。
莫辭更坐彈一曲，
爲君飜作琵琶行。
感我此言良久立，
却坐促弦弦轉急。
淒淒不似向前聲，
滿座重聞皆掩泣。
座中泣下誰最多，
江州司馬青衫濕。
<End Poem>
<Translation>
元和十年八一五、わたしは九江郡の司馬に左遷された。その翌年の秋、旅立つ友人を溢浦のあたりに見送ると、どこかの舟の中で、夜、琵琶を弾くのが聞こえてきた。その音色に耳を傾けると、いかにも高く澄みわたって高雅な都のひびきがあった。どのような人かと、琵琶を弾くその人に尋ねると、もとは長安の歌妓で、以前には琵琶を穆善・曹善才の名で呼ばれた二人の師匠に学んだのであったが、年をとり、容貌が衰えてからは、結婚して商人の妻となったという。そこでその場で酒の準備を整えさせ、倡女の思いのままに何曲かを弾かせてみた。演奏する曲が終わると、悲しそうなようすで、自分の若い時の楽しかったことと、それに反して現在さすらい落ちぶれ、やつれはててこの都から遠い南の地方を転々と流浪する身の上であることを物語るのだった。
わたしは、地方の役人になって左遷されてから足かけ二年、心穏やかにわれとわが身をゆったりと落ち着かせて過ごして来たが、この女の人のことばに心を働かされて、今晩はじめて、左遷の身の上であるという実感を味わった。そこで次の長い歌を作って、この女性に贈ることにした。全部で六百十二字実は、六百十六字、琵琶の歌と名づける次第である。
潯陽江のほとりで、夜、旅立つ人を見送ろうとした。あたりには紅葉したからかえでの葉や白いおぎの花 が見えて、秋のわびしさ・さびしさが満ちわたっていた。 
見送りに来たあるじであるわたしが馬からおりると、旅立つ人は、もう船に乗っており、船中で、送別の最後の宴を開こうとして酒杯を取り上げてみたが、ここで奏すべき音楽の用意がない。
酒には酔っても、いっこうに歓楽の気分になりきれず、暗くわびしい心のままに、今まさに別れようとしていた。その別れの時、はてしなく広がる眼前の長江の水面は、月の光を溶かしこんでいるように輝いている。ちょうどその時ふと聞こえてきたのは、川水の上をひびきわたってくる琵琶の音色であった。その音色に聞き入ってあるじであるわたしは帰ることを忘れ、旅立つ人は出発しようとしなかった。
琵琶の音色をたよりにして、暗闇に向かって「弾いているのは誰ですか」と問いかけると、琵琶の音ははたとやんで、答えようとして(いるようすなのだが、なかなかに答えが返って来なくて、もどかしい。 
そこで、こちらの船を動かし、先方の船に近づけて、その人を迎え入れ、顔を見ようとし、酒を追加し、灯火の向きを変えて、宴席を整え直し、もう一度酒宴を催すことにした。そして、何度も何度も声をかけるとその人は、ようやく船から出ては来たが、それでもなお、琵琶を抱きかかえて、その琵琶顔を半分は隠しているありさまだった。
その人は、琵琶の弦をしめて調子を合わせ、 撥で払って二声三声の音をたてると、まだ本格的な音曲の調べになっていないうちに、はやくも豊かな情感がこもっている。 
一弦一弦が、撥で巧みにおさえられてその一音一音の音色にこめられた深い思いは、常ひごろのままならない思いを、嘆き訴えているかのようである。伏し目がちに、手の動きにまかせきって、次から次へと弾き続け、心の中の限りない思いのたけを、すべて述べ尽くそうとしているようであった。 
弦を軽くおさえ、ゆるやかにひねり、つまみ上げたかと思うと、続けて下から上へかき上げる。最初は霓裳羽衣の曲を、その後では六幺の曲を演奏した。 
大絃はにわか雨のように激しい急な調子で、小弦はひそかなささやきのように、細く長くひびき続ける。
激しい急な調子と、細く長く続く音とが、いりまじって演奏されて、それはまた大小の真珠が、美玉の大皿の上に、音をたてて落ちかかるようである。また、それは、なごやかに鳴くうぐいすの声が、群がり咲く花のもとからなめらかに流れ出ているかのようであり、かすかにむせび泣くように流れ出る泉の水が、早瀨をくだって行く音のようでもある。 
そのうちに流れる泉の水が、冷たく凍りついて流れなくなるように、琵琶の音は凝結してしまう。弦が凝結してとだえてしまい、その余韻もしだいに聞こえなくなる。
するとこれまでとは別種の深い憂いと人知れぬうらみのような雰囲気が生まれ、この時、音のないことこそ 、かえって音のあるのよりもまさった効果があるように感じられるのだ。
そしてまた、銀の水がめが急にこわれて、水がほとばしり出るように、ひびきわたるかと思えば、鉄のよろい武者が突然に躍り出して、刀や槍の打ち合うような、激しい音が鳴りひびく。 
その曲の演奏が終わり、撥を引き寄せ、胸の前で大きく弧を描くようにして、弾き終えると、四本の弦が、一度に強いひびきを放って、絹の布地を引き裂くようであった。それを耳にしては東に西に停泊していた船の人々は、感動のあまりひっそりと静まりかえって、ことばを発する者もなく、ただ長江の流れの中ほどに、秋の月が白く浮かんでいるのが見えるばかりであった。 
深いもの思いにうなだれ、撥を扱うことをやめて、琵琶の弦の中にはさみ、着物の乱れをととのえて、いずまいを正した。 
そして、その女性は、自分から次のような身の上話を語り出したのだった。「わたしは、もとはといえば、都の長安で育った女でありました。家はあの華やかな蝦蟇陵のあたりにあって、そこにずっと住んまりようでいたのです。十三歳で琵琶を習い覚えて、一人前となり、その名は、教習所の第一のすぐれたグループに連なるようになりました。 
わたしが一曲弾き終わると、いつも師匠を感服させるほどであり、すっかりお化粧を済ませると、いつも世の美女たちからねたまれたものでした。そのために、五陵の地に住むような若い貴公子たちは、競い合ってわたしに贈り物をし、一曲の演奏に紅の美しい薄絹が数えきれないほどでした。 
螺鋼飾りの銀の櫛は、拍子をとって打ちつけて砕け散ってしまい、あざやかな真紅の薄絹のもすそも、酒ををひっくり返してよごしてしまうというありさま。このようにして、今年も楽しみ笑い、来年もまたそのようにしてといったぐあいに、歓楽のあけくれを過ごし、秋の月も春の風も、うかうかただ送り迎えして、いいかげんに年月を過ごしてしまったのです。 
そのうちに、弟は、進んで家を出て軍隊に入って兵士となり、養母は死に、そのうちにも夕暮れは過ぎ去り、また新たな朝を迎えるうちに、わたしも年をとって容貌は衰えてしまったのです。 
家の前はさびれはてて、来客の車馬も少なく、年をとってしまったわたしは、とうとう嫁いで商人の妻となったのです。商人というものは、利益ばかりを大切にして、夫婦の別れのつらさなどをかえりみることなく、先月遠く東方の浮梁に、茶の仕入れに出かけたままなのです。 
夫が出かけてしまってから、わたしは川のほとりに夫のいないさびしい船の留守を守っているのですが、船室をとりまいて、明月の光と川の水とがまことに冷たく感じられるのです。夜ふけに、ふと夢に見るのは、若かったころの華やかな思い出ばかり。その夢の中で泣いて、化粧した顔に流れる涙は、紅の色に染まってとめどもないありさまなのです。」と。
わたしは、琵琶を聞いただけで感動してため息をついてしまったのだが、更にまた、このことばを聞いては、もう一度深いため息をつくのだった。二人は同じく空の果てのようなこの遠隔の地、九江に落ちぶれた人どうしである。二人の人が出あって共感し合うのは、どうして昔からの知り合いだけに限られようか。 
わたしは去年八一五都の長安に別れをつげてから、この潯陽の町に左遷されてわび住まいし、病気がちである。ここ陽の地は、都から遠く隔たる田舎であって、すぐれた音楽もない。一年中、高雅にひびく管弦の楽の音などを聞くべくもないのだ。 
わたしの住居は昔の溢城の町の城壁に近く、地面は低く、じめじめしており、黄色い枯れあしや、僻遠の地の異様に大きな真竹などが家のまわりに生い茂っている。そのあたりで朝なタなに、何が聞こえるかといえば、ほととぎすの血を吐くような鳴き声と、猿の鳴き声ばかりである。 
しかし、また春の川べりに花咲く朝や、秋の月の夜は、しばしば酒を取り寄せては、またひとり酒杯を傾ける。その時、ここにもどうして山辺の歌や村人の吹く笛などがないことがあろうか。しかし、それらは、調子はずれで、洗練されていないものばかりで、とうてい聞くに耐えない。 
ところが今夜、あなたの琵琶の語りかけるような調べを聞いて、ちょうど仙人の音楽を聞く思いがして、わたしの耳は、しばしの間、洗い清められたように澄みわたったように感じられる。 
どうか辞退などしないで欲しい、もう一度座り直して、一曲を演奏することを。あなたのために、あなたの琵琶の曲調を詩に作り変えて、「琵琶行」を作ろうと思うから。
わたしのこの言葉に感動してか、かなりの時間、立ちつくしていたが、引きさがって座り直し、弦を引きしめ弾き始めると、その弦の音色は、ますます激しく急な調子となった。 
もの悲しくいたましくて、その音色は先ほどのひびきとは大いに異なり、座中のすべての人々は、かさねがさねのこの琵琶の演奏を聞いて、みな涙の顔をおおうばかりであった。その中でも、涙を流すことが誰が一番多かったかといえば、江州の司馬に左遷されているわたし自身であって、そのわたしの下級役人としての青いひとえの着物こそ、すっかり、涙でぬれてしまったことだ。
<End Translation>
<Formatted Translation>
元和十年八一五、わたしは九江郡の司馬に左遷された。その翌年の秋、
旅立つ友人を溢浦のあたりに見送ると、どこかの舟の中で、夜、琵琶を弾くのが聞こえてきた。
その音色に耳を傾けると、いかにも高く澄みわたって高雅な都のひびきがあった。どのような人かと、琵琶を弾くその人に尋ねると、
もとは長安の歌妓で、以前には琵琶を穆善・曹善才の名で呼ばれた二人の師匠に学んだのであったが、
年をとり、容貌が衰えてからは、結婚して商人の妻となったという。
そこでその場で酒の準備を整えさせ、倡女の思いのままに何曲かを弾かせてみた。
演奏する曲が終わると、悲しそうなようすで、自分の若い時の楽しかったことと、
それに反して現在さすらい落ちぶれ、やつれはててこの都から遠い南の地方を転々と流浪する身の上であることを物語るのだった。
わたしは、地方の役人になって左遷されてから足かけ二年、心穏やかにわれとわが身をゆったりと落ち着かせて過ごして来たが、
この女の人のことばに心を働かされて、今晩はじめて、左遷の身の上であるという実感を味わった。
そこで次の長い歌を作って、この女性に贈ることにした。全部で六百十二字実は、六百十六字、
琵琶の歌と名づける次第である。
潯陽江のほとりで、夜、旅立つ人を見送ろうとした。
あたりには紅葉したからかえでの葉や白いおぎの花 が見えて、秋のわびしさ・さびしさが満ちわたっていた。 
見送りに来たあるじであるわたしが馬からおりると、旅立つ人は、もう船に乗っており、
船中で、送別の最後の宴を開こうとして酒杯を取り上げてみたが、ここで奏すべき音楽の用意がない。
酒には酔っても、いっこうに歓楽の気分になりきれず、暗くわびしい心のままに、今まさに別れようとしていた。
その別れの時、はてしなく広がる眼前の長江の水面は、月の光を溶かしこんでいるように輝いている。
ちょうどその時ふと聞こえてきたのは、川水の上をひびきわたってくる琵琶の音色であった。
その音色に聞き入ってあるじであるわたしは帰ることを忘れ、旅立つ人は出発しようとしなかった。
琵琶の音色をたよりにして、暗闇に向かって「弾いているのは誰ですか」と問いかけると、
琵琶の音ははたとやんで、答えようとして(いるようすなのだが、なかなかに答えが返って来なくて、もどかしい。 
そこで、こちらの船を動かし、先方の船に近づけて、その人を迎え入れ、顔を見ようとし、
酒を追加し、灯火の向きを変えて、宴席を整え直し、もう一度酒宴を催すことにした。
そして、何度も何度も声をかけるとその人は、ようやく船から出ては来たが、
それでもなお、琵琶を抱きかかえて、その琵琶顔を半分は隠しているありさまだった。
その人は、琵琶の弦をしめて調子を合わせ、 撥で払って二声三声の音をたてると、
まだ本格的な音曲の調べになっていないうちに、はやくも豊かな情感がこもっている。 
一弦一弦が、撥で巧みにおさえられてその一音一音の音色にこめられた深い思いは、
常ひごろのままならない思いを、嘆き訴えているかのようである。
伏し目がちに、手の動きにまかせきって、次から次へと弾き続け、
心の中の限りない思いのたけを、すべて述べ尽くそうとしているようであった。 
弦を軽くおさえ、ゆるやかにひねり、つまみ上げたかと思うと、続けて下から上へかき上げる。
最初は霓裳羽衣の曲を、その後では六幺の曲を演奏した。 
大絃はにわか雨のように激しい急な調子で、
小弦はひそかなささやきのように、細く長くひびき続ける。
激しい急な調子と、細く長く続く音とが、いりまじって演奏されて、
それはまた大小の真珠が、美玉の大皿の上に、音をたてて落ちかかるようである。
また、それは、なごやかに鳴くうぐいすの声が、群がり咲く花のもとからなめらかに流れ出ているかのようであり、
かすかにむせび泣くように流れ出る泉の水が、早瀨をくだって行く音のようでもある。 
そのうちに流れる泉の水が、冷たく凍りついて流れなくなるように、琵琶の音は凝結してしまう。
弦が凝結してとだえてしまい、その余韻もしだいに聞こえなくなる。
するとこれまでとは別種の深い憂いと人知れぬうらみのような雰囲気が生まれ、
この時、音のないことこそ 、かえって音のあるのよりもまさった効果があるように感じられるのだ。
そしてまた、銀の水がめが急にこわれて、水がほとばしり出るように、ひびきわたるかと思えば、
鉄のよろい武者が突然に躍り出して、刀や槍の打ち合うような、激しい音が鳴りひびく。 
その曲の演奏が終わり、撥を引き寄せ、胸の前で大きく弧を描くようにして、
弾き終えると、四本の弦が、一度に強いひびきを放って、絹の布地を引き裂くようであった。
それを耳にしては東に西に停泊していた船の人々は、感動のあまりひっそりと静まりかえって、ことばを発する者もなく、
ただ長江の流れの中ほどに、秋の月が白く浮かんでいるのが見えるばかりであった。 
深いもの思いにうなだれ、撥を扱うことをやめて、琵琶の弦の中にはさみ、
着物の乱れをととのえて、いずまいを正した。 
そして、その女性は、自分から次のような身の上話を語り出したのだった。
「わたしは、もとはといえば、都の長安で育った女でありました。
家はあの華やかな蝦蟇陵のあたりにあって、そこにずっと住んまりようでいたのです。
十三歳で琵琶を習い覚えて、一人前となり、
その名は、教習所の第一のすぐれたグループに連なるようになりました。 
わたしが一曲弾き終わると、いつも師匠を感服させるほどであり、
すっかりお化粧を済ませると、いつも世の美女たちからねたまれたものでした。
そのために、五陵の地に住むような若い貴公子たちは、競い合ってわたしに贈り物をし、
一曲の演奏に紅の美しい薄絹が数えきれないほどでした。 
螺鋼飾りの銀の櫛は、拍子をとって打ちつけて砕け散ってしまい、
あざやかな真紅の薄絹のもすそも、酒ををひっくり返してよごしてしまうというありさま。
このようにして、今年も楽しみ笑い、来年もまたそのようにしてといったぐあいに、歓楽のあけくれを過ごし、
秋の月も春の風も、うかうかただ送り迎えして、いいかげんに年月を過ごしてしまったのです。 
そのうちに、弟は、進んで家を出て軍隊に入って兵士となり、養母は死に、そのうちにも夕暮れは過ぎ去り、また新たな朝を迎えるうちに、わたしも年をとって容貌は衰えてしまったのです。 
家の前はさびれはてて、来客の車馬も少なく、年をとってしまったわたしは、
とうとう嫁いで商人の妻となったのです。
商人というものは、利益ばかりを大切にして、夫婦の別れのつらさなどをかえりみることなく、
先月遠く東方の浮梁に、茶の仕入れに出かけたままなのです。 
夫が出かけてしまってから、わたしは川のほとりに夫のいないさびしい船の留守を守っているのですが、
船室をとりまいて、明月の光と川の水とがまことに冷たく感じられるのです。
夜ふけに、ふと夢に見るのは、若かったころの華やかな思い出ばかり。
その夢の中で泣いて、化粧した顔に流れる涙は、紅の色に染まってとめどもないありさまなのです。」と。
わたしは、琵琶を聞いただけで感動してため息をついてしまったのだが、
更にまた、このことばを聞いては、もう一度深いため息をつくのだった。
二人は同じく空の果てのようなこの遠隔の地、九江に落ちぶれた人どうしである。
二人の人が出あって共感し合うのは、どうして昔からの知り合いだけに限られようか。 
わたしは去年八一五都の長安に別れをつげてから、
この潯陽の町に左遷されてわび住まいし、病気がちである。
ここ陽の地は、都から遠く隔たる田舎であって、すぐれた音楽もない。
一年中、高雅にひびく管弦の楽の音などを聞くべくもないのだ。 
わたしの住居は昔の溢城の町の城壁に近く、地面は低く、じめじめしており、
黄色い枯れあしや、僻遠の地の異様に大きな真竹などが家のまわりに生い茂っている。
そのあたりで朝なタなに、何が聞こえるかといえば、
ほととぎすの血を吐くような鳴き声と、猿の鳴き声ばかりである。 
しかし、また春の川べりに花咲く朝や、秋の月の夜は、
しばしば酒を取り寄せては、またひとり酒杯を傾ける。
その時、ここにもどうして山辺の歌や村人の吹く笛などがないことがあろうか。
しかし、それらは、調子はずれで、洗練されていないものばかりで、とうてい聞くに耐えない。 
ところが今夜、あなたの琵琶の語りかけるような調べを聞いて、
ちょうど仙人の音楽を聞く思いがして、わたしの耳は、しばしの間、洗い清められたように澄みわたったように感じられる。 
どうか辞退などしないで欲しい、もう一度座り直して、一曲を演奏することを。
あなたのために、あなたの琵琶の曲調を詩に作り変えて、「琵琶行」を作ろうと思うから。
わたしのこの言葉に感動してか、かなりの時間、立ちつくしていたが、
引きさがって座り直し、弦を引きしめ弾き始めると、その弦の音色は、ますます激しく急な調子となった。 
もの悲しくいたましくて、その音色は先ほどのひびきとは大いに異なり、
座中のすべての人々は、かさねがさねのこの琵琶の演奏を聞いて、みな涙の顔をおおうばかりであった。
その中でも、涙を流すことが誰が一番多かったかといえば、
江州の司馬に左遷されているわたし自身であって、そのわたしの下級役人としての青いひとえの着物こそ、すっかり、涙でぬれてしまったことだ。
<End Formatted Translation>